「忘れられない人」

親友Hという男がいる。

小学生から高校までずっと一緒だった。

彼の性格は基本的にまじめだが、球技やらは抜きんでてダメで、必ず隅に追いやられる

タイプ。しかし勉強学の成績は学年でも一番か二番の座にいた、いわゆるガリ勉だ。

そんな彼とはなぜか気心知れた関係でいた。

高校3年のある日、話しがあるからと私は彼の家に呼び出された。

彼は大学進学希望だったので、、勉強にことさら力を入れ、私のような能天気な高校生活とは

真逆な折り目正しい生活を愚直に送っていたのが、彼の部屋に入るとすぐ目にとれた。

彼は少し話ししずらそうな態度を見せながらも口を開いた。

「俺、お前と決闘しようと思っているんだ」

いきなり訳のわからない言葉を発した。「決闘」の言葉が新鮮で今もって記憶に残っている。

さて、「決闘」とは何か、これは穏やかな進行ではない。

「何のために?」

「俺さ、好きな子がいるんだ」

「好きな子?」

「一学年下の〇〇さ」

「あーあいつか…知ってるよ」

「その○○、お前のことが好きなんだって」

「うーん、だから?」

「お前に決闘を申し込みたい」

(こいつ、勉強のし過ぎで頭おかしくなったんじゃないの?)

話しの要旨はこうだ。

Hは好きになった彼女に告白したら、どうも私のことが好きらしくて、ならば決闘して

白黒をつけようとしてるらしい。

(西部劇でもあるまいに、バカバカしい)

「俺なんか○○のことなんか、何とも思ってねえよ」と返した。

無論、決闘なんかするはずもなく、その場は収まった。

それから、Hと○○がどうなったか私は知らない。いや覚えていないというのが

正解か。

高校卒業後もHとはたまに会ったりはしたが、不思議とその話しになったことはない。

最近はもう10年以上は顔をみたことがなく、せいぜい賀状のやりとりに過ぎないが

「決闘」を申し込んできた男として、私の記憶から漏れることはない。

もし、あの時「決闘」を受けていたらどうなっていただろうか。

血を見たのか、仲が崩れたのか、わかる由もない。

一つだけ書き忘れたが、スポーツが苦手だった彼だが、相撲だけはめちゃくちゃ強かった。

「相撲で決着をつけよう」と言われていたら、私は間違いなく完敗していただろう。

上手投げなんかで簡単に転ばされていたに違いない。

青春とは不思議だ。

カテゴリー: ライター修行

飛び鷹

現役消防士。定年後に備え2級建築士取得に向け日々奮闘中。 趣味は登山。いつかは日本百名山制覇を夢見る。

1件のコメント

ジョー · 2021年9月17日 4:59 PM

H氏の思っていた決闘って、拳だったのですかね?
真面目な人なので、自分の有利な土俵で戦おう
なんて、きっと考えていなかったでしょうね。

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